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福島家庭裁判所白河支部 昭和54年(家)52号 審判

申立人 河村康久

相手方 河村部子 外二名

主文

一、被相続人亡河村勇吉の別紙物件目録(一)記載の遺産を次のとおり分割する。

別紙物件目録(一)記載の各物件を、いずれも申立人の単独取得とする。

二、本件手続費用は各自の負担とする。

理由

本件記録に編綴されている各戸籍謄本、各登記簿謄本、当裁判所の申立人及び相手方河村邦子に対する各審問の結果、家庭裁判所調査官作成の調査報告書、鑑定人作成の不動産鑑定評価書、相手方山本礼子、同河村恵子作成の各相続分不存在証明書写及び当裁判所の照会に対する各回答、申立人作成の上申書その他本件にあらわれた一切の資料を総合すると、以下の事実が認められる。

第一  当事者及び法定相続分

被相続人河村勇吉は昭和五三年二月二八日死亡し、その相続人は同人の長男である申立人河村康久、長女相手方河村邦子、二女相手方河村恵子、三女相手方山本礼子の四名であり、各当事者の決定相続分はそれぞれ四分の一である。

第二  遺産の範囲及び評価

被相続人の遺産は別紙目録(一)記載のとおりである。鑑定人○○○○の鑑定結果によれば、昭和五五年二月一〇日時点での右遺産(いずれも不動産である。)の評価額は、同目録(一)評価額欄記載のとおりであり、合計二一、四七三、〇〇〇円である。

第三  特別受益

一、被相続人は、昭和四七年二月二日、別紙物件目録(二)記載の土地につき、昭和四六年一〇月一五日贈与を原因として、相手方河村邦子の夫である河村洋一郎に対し所有権移転登記手続をした(以下右土地の贈与を本件贈与という。)。

鑑定人○○○○の鑑定結果によれば、昭和五五年二月一〇日時点での右各土地の評価額は前記目録(二)評価額欄記載のとおりであり、合計一三、五五一、四〇〇円である。

二、本件贈与がなされるに至つた経緯は次のとおりである。

(一)  相手方河村邦子は、昭和二四年一二月に、洋一郎と結婚し、昭和二五年一月一三日婚姻届をした。婚姻後、洋一郎は、妻邦子の氏を称し、住居も邦子の両親(被相続人河村勇吉夫婦)と同居していた。当時、被相続人の長男の申立人は未だ六歳であつたため、同人が将来農学校を終えて一人前になつたときに、邦子夫婦は土地を分けてもらい分家することとし、それまで両親の農業を手伝うことになつていた。洋一郎は○○職員であるので、邦子が両親とともに田畑の耕作などに従事して手伝つていた。

(二)  昭和三六年三月に申立人は農業高校を卒業し、農業の手伝いをするようになつた。そこで同年一二月に、邦子夫婦は、いわゆる分家をし、両親と生計及び居住を別にし、同時に被相続人から「別紙物件目録(二)記載の土地の贈与を受けて、以後邦子は同目録記載の田畑を耕作するようになつた。なお、その後も邦子は昭和四二年ころまで両親の農業の手伝をすることがあつた。

(三)  被相続人の妻河村ヨネが昭和四六年三月五日死亡したことから同人は財産関係を明確化しておく必要を感じ、前記贈与した土地について、前記のとおり昭和四七年二月二日所有権移転登記手続をした。

三、申立人は、右の贈与は相手方河村邦子の特別受益にあたる旨主張するので、その点について判断する。

本件贈与は、相続人である相手方河村邦子に対してではなく、その夫である河村洋一郎に対してなされているのであるから、形式的に見る限り特別受益にはあたらないことになる。しかし、通常配偶者の一方に贈与がなされれば、他の配偶者もこれにより多かれ少なかれ利益を受けるのであり、場合によつては、直接の贈与を受けたのと異ならないこともありうる。遺産分割にあたつては、当事者の実質的な公平を図ることが重要であることは言うまでもないところ右のような場合、形式的に贈与の当事者でないという理由で、相続人のうちある者が受けている利益を無視して遺産の分割を行うことは、相続人間の実質的な公平を害することになるのであつて、贈与の経緯、贈与された物の価値、性質これにより相続人の受けている利益などを考慮し、実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には、たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であつてもこれを相続人の特別受益とみて、遺産の分割をすべきである。

これを本件についてみると、前認定の贈与にいたる経緯から明らかなとおり、本件贈与は邦子夫婦が分家をする際に、その生計の資本として邦子の父親である被相続人からなされたものであり、とくに贈与された土地のうち大部分を占める農地についてみると、これを利用するのは農業に従事している邦子であること、また、右贈与は被相続人の農業を手伝つてくれたことに対する謝礼の趣旨も含まれていると認められるが、農業を手伝つたのは邦子であることなどの事情からすると、被相続人が贈与した趣旨は邦子に利益を与えることに主眼があつたと判断される。登記簿上洋一郎の名義にしたのは、邦子が述べているように、夫をたてたほうがよいとの配慮からそのようにしたのではないかと推測される。以上のとおり本件贈与は直接邦子になされたのと実質的には異ならないし、また、その評価も、遺産の総額が、二一、四七三、〇〇〇円であるのに対し、贈与財産の額は一三、五五一、四〇〇円であり、両者の総計額の三八パーセントにもなることを考慮すると、右贈与により邦子の受ける利益を無視して遺産分割をすることは、相続人間の公平に反するというべきであり、本件贈与は邦子に対する特別受益にあたると解するのが相当である。

第四  相続分の譲渡

相手方山本礼子は昭和五三年四月一六日に、同河村恵子は同年五月二一日に、それぞれ相続分不存在証明書を作成し、申立人に交付している。当裁判所の照会に対する右相手方らの回答及び当裁判所調査官作成の調査報告書によれば、右相続分不存在証明書の作成、交付は、申立人に対し、相手方両名の相続分を譲渡する趣旨でなされたものであることが認められる。

第五  分割

一、相手方河村邦子について、具体的相続分を算定する。具体的相続分算定にあたつて特別受益の評価の基準時は、相続開始時と解されているが、本件においては、遺産も、特別受益財産もともに不動産であり、同一時期に鑑定評価されているので、右評価額に基づいて具体的相続分を算定して差支えない。すると、遺産の総額が、二一、四七三、〇〇〇円、特別受益の額が一三、五五一、四〇〇円、邦子の法定相続分が四分の一であるから、その相続分は、

(21,473,000+13,551,400)×1/4 = 8,756,100(円)

そして、同人が受けた特別受益の額は、右相続分を超えるから、結局同人の取得分はないことになる。

なお、前記のとおり、邦子は長年月にわたり被相続人の農業を手伝つており、被相続人の財産形成に寄与したものと考えられるが、前認定のとおり、右寄与に対する謝礼の趣旨も含めて本件贈与がなされており、本件贈与が、邦子の法定相続分を大幅に超えていることを考慮すると、邦子の寄与は、右贈与により清算されているものと判断される。

二  相手方山本礼子、同河村恵子は、前述のとおり相続分を申立人に譲渡している。

三  よつて、本件遺産については、全て申立人が取得することになる。

第六  結論

以上のとおり、本件については主文一のとおり分割することとし、手続費用については各自の負担とし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 房村精一)

物件目録〈省略〉

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